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いにしえの建築をめぐる旅

【福島県への旅】有栖川宮殿下の湖畔の別邸【重要文化財 天鏡閣でお茶する】

福島迎賓館に続いて見学したのが、すぐ近くにある天鏡閣です。

天鏡閣(正面)

天鏡閣とは

  • 有栖川宮威仁親王殿下が東北旅行中、猪苗代湖畔を巡遊した際、この地の風光に魅せられ別邸として明治41年(1908年)に建築。
  • 同年、大正天皇が行啓の際、「天鏡閣」と命名李白の「明湖落天鏡」という詩がその由来。当時、この邸宅から猪苗代湖を眺めることができたようで、湖面を鏡にたとえたとのこと。
  • 大正13年(1924年)、有栖川宮威仁親王殿下から高松宮宜仁親王殿下へ引き継がれる。
  • 昭和27年、高松宮宜仁親王殿下より福島県へ御下賜。しばらく研修や会議で使用されたが老朽化で使用を中止。
  • 昭和54年、重要文化財に指定。修復工事を経て一般公開へ。

現在は鬱蒼とした木々に囲まれていますが、建築当時は樹木が少なく猪苗代湖を眺めることができたそうです。

ウィキペディアに当時の写真が掲載されているけれど、確かに眺めが良さそう。

戦前の皇族の邸宅の、優雅な意匠が印象的な建物です。

横から見た天鏡閣。入口はこちら。

有栖川宮威仁親王殿下とは

敷地内には有栖川宮威仁親王殿下の銅像が建っています。

これは当時から建っていたわけはなく、1980年代の修復工事完了後に東京の築地が移築再建されたものです。

この邸宅は有栖川宮威仁親王殿下(1862~1913)が建てました。

  • 江戸時代から大正時代にかけて存在した有栖川宮家の最後の当主
  • 海軍に就職した最初の皇族軍人であり海軍大将
  • 妃は加賀金沢藩主、前田慶寧公の四女である慰子妃
  • ニコライ皇太子が襲撃された大津事件では皇太子の接待役を努め、皇太子が襲撃された際は明治天皇に緊急行幸を申請し誠実な対応をしてロシアとの関係悪化を回避

邸内には、明治42年に韓国皇太子や伊藤博文公と天鏡閣を訪問した際の写真が展示されていますが、晩年は病気の療養もあり神戸市の舞子別邸ですごされて薨去されています。

天鏡閣の見学

その天鏡閣ですが、玄関ホールは割と質素。

ただ暖炉・鏡・帽子掛け・シャンデリアなど建築当初のものを見ることができます。

鏡と帽子掛けはアール・ヌーヴォー様式※。

※19世紀末から20世紀初めに西欧で流行した建築・工芸の様式。
植物からヒントを得た流動的な曲線や曲面を使用するのが特色。(案内より引用)

玄関ホール

帽子掛け

暖炉

続く客間は天鏡閣で最も優雅なお部屋です。

客間

見どころはロココ調※をベースにしつつも和風を織り交ぜた家具やシャンデリア。

※フランスのルイ15世時代の装飾様式。複雑な渦巻や花飾りなどの曲線を用い、金色で彩色する濃厚華麗な装飾が特色。(案内より引用)

フランス絶対王政期の華やかな意匠と和を混ぜたこのスタイルは、この時代、皇族や貴族の邸宅で流行したそうです。

椅子は鹿鳴館で使用されていたものを複製しています。

また同じくロココ調のシャンデリアは天使が舞う様子が彫られた細かな意匠が印象的な豪華なものです。円形の天井飾りも細かな装飾が施されていて他の部屋より優雅でした。

ちなみにこれは暖炉を含め高松宮家から寄贈されたものになります。

暖炉といえば、天鏡閣は冬の寒さ対策なのか各部屋に暖炉が備え付けられており全部でなんと26基も設置してあります。

アールヌーヴォースタイルのマントルピースがそれぞれ印象的でした。

客間の隣は撞球室となってます。これは「どうきゅうしつ」と読み、ビリヤード台が設置してあります。

明治時代の洋館にはよく設置されていたそうで、まあ、みんなで食後とか三時のティータイムどきにビリヤードをやっていたのでしょうか。

おもしろいのは照明器具。

4個の電球を使用することでビリヤード台を均一に照らしゲーム中に球の影ができないように工夫がされています。

ビリヤード台は原三渓より譲り受けたもの

二階は御座所、御寝室などプライベートな空間になってますが、畳が敷かれた和風の部屋もありました。やはり和風が落ち着くのかもしれませんね。

天鏡閣ティータイム

今回、僕が参加した「特別公開」では、一通り見学し終わった後、天鏡閣の食堂で「ロイヤルティー&スイーツ」タイムがあります。

他の見学客がティータイムをとっている間、僕は一人で宅内の見学をしていたため、僕がお茶をいただく時はみんなが帰った後。

そのため、天鏡閣の食堂で一人リッチにお茶することになりました。

こういった重要文化財の建物で食堂を独り占めしてお茶できるってなかなか無いですよね。

殿下も伊藤博文公もまさか、115年後にTシャツにジーパン姿の一介の30代の男が皇族の別邸でお茶しているとはご想像されなかったに違いない。

食堂

紅茶にお菓子

というわけで、上記のような貴重な時間をすごせたこともあり「令和5年度福島迎賓館・天鏡閣特別公開プログラム」はとても充実した見学でした。