阪急神戸線「芦屋川駅」から芦屋川に沿って北に向かい、開森橋交差点を超えると「ライト坂」という坂がみえてくる。
割と急な坂で、(たまたまだろうけれど)車の往来も多い。
ネット検索すると「ライト坂 事故」という検索ワードも出てくるので事故も多いのかもしれない。
その割と急な坂の斜面に家々が建ち並び、閑静な住宅街を形成している。
高級住宅地と言われているこのエリアに、今回の目的地であるヨドコウ迎賓館(旧山邑家住宅)も建っている。
ライト坂を上り始めて割とすぐに迎賓館の駐車場と看板が見えてくる。
「ライト坂」という名前は「ヨドコウ迎賓館」を設計したフランク・ロイド・ライトが由来。
坂の命名については芦屋市が公募で決めたとのこと。
やはり近代建築の巨匠と言われるライトの建物がある、ということで市民にも親しまれているようだ。
ヨドコウ迎賓館(旧山邑家住宅)の概要
- 鉄筋コンクリート造4階建て
- 敷地面積5,200㎡
- 建築面積359.1㎡
- 大正13年(1924年)築
- 灘の酒造家、山邑太左衛門の依頼を受けF・L・ライトが設計
- 1947年、株式会社淀川製鋼所の所有となる
- 1974年、国の重要文化財に指定
- 1989年より一般公開が始まる
公式HPによるとライトの建築のほとんどが母国アメリカにあり、国外の作品は計画案も含めて30件とのこと。
そのうち3分の1が日本で、実際に建築されたものは6件。
そして現在まで建築当初の姿を残しているのは東京の自由学園明日館とこのヨドコウ迎賓館のみ。
ということでヨドコウ迎賓館はとても貴重な建物ということになる。
ちなみに(個人的に)気になっていた「ヨドコウ」という名前は所有者である淀川製鋼所からきていることもわかった。
各階の概要
ヨドコウ迎賓館は斜面をうまく使って建てられている、と言われているが木が敷地を囲っていることもあり外からではその全貌がうまく把握できず。
ということで迎賓館の駐車場から外観を撮影した。
敷地入口からしばらく歩くと1階スペースが見えてくる。
1階部分は車寄せになっていて奥に小さな玄関があるのみ。
僕は専門的にライトの建築を学んだわけではないので間違っても「ライトらしい建築ですね」なんて(偉そうに)言えないけれど、明治村の旧帝国ホテル中央玄関でもみたことがある、幾何学的なデザインと石材が目に入って「ああF・L・ライトの建築なんだな~」と思った。
玄関に入って受付を済ませる。
大人は500円。
こんな大きな邸宅なのに玄関は小さめなのが印象的。
2階は応接室。
3階は和室。
もともと和室は設計の予定がなかったとのこと。
ただ施主からの強い希望で設けられた。
こういっちゃなんだけれど、個人的にこの建物で和室が一番落ち着いた。
広くて開放感があるし、外の樹木の緑が和室とよく調和しているから。
和室のあるライト建築は世界でここだけ(だと思う)。
4階は食堂。
ちょっと厳粛な雰囲気で教会っぽい天井のデザインに目を奪われた。
印象に残ったこと➀木々の緑
この建物の2階、3階を見学していてつくづく感じたことは建物を囲む木々とその緑が、暗めな宅内とコントラストになっていてとても綺麗だったということ。
これが1924年築と思うとちょっと驚く。
というのも今でも古くないから。
ちょっと他の「レトロ建築」とは違うなと思った。
芦屋川駅から見えるとのことだけれど、当時はとても目を引いたのではないだろうか。
「迎賓館」と銘打っているけれど、人がワイワイ集まる場所というよりは、休日を静かに親族や友人たちと過ごす場所といった雰囲気。印象としてはやはり社長の別邸、といった感じ。
印象に残ったこと②デザイン
ライトの建築をSF的(近未来的)と言う人と古代遺跡っぽいと言う人がいる。
自分はどちらかといえば古代遺跡っぽいと思う。
石材に彫刻された幾何学模様や飾り銅板の透かしからもれる灯りが古代遺跡のような神秘的な雰囲気を醸し出しているから。
「古代」なのか「未来」なのか。
どちらにも言えるって不思議ですね。
SFと言えば、いくつかのSF映画にライト建築が登場している。
有名なところでいえばハリソン・フォード主演の「ブレードランナー」。
この作品ではライトが1924年に設計したエニス・ブラウン邸が主人公デッカードの自宅として使われている。
エニス・ブラウン邸はヨドコウ迎賓館や旧帝国ホテルに似た僕の思う「古代風」。
設計した年代も同じくらい。
一方「ガタカ」という97年公開の近未来SF映画で登場するライト設計の「マリン郡シビックセンター」はヨドコウ迎賓館等とは違った趣のある建物でこれは「近未来風」と感じた。
時代によって作風が違うようだ。
ヨドコウ迎賓館では、和風テイストもそこかしこに感じる。
弟子である遠藤新と南信が完成させたからだろうか?(ライトは完成前にアメリカに帰国)。
割と全体的に暗めな宅内だけれど、採光の取り方にも工夫があって、応接室の小窓や食堂の三角形の小窓がユニーク。
印象に残ったこと③バルコニー
4階の食堂からバルコニーに出られるようになっている。
広々としており、そこから市街地や大阪湾を眺めることができる。
高級住宅街と言われている芦屋市。
もともと明治中期以降、別荘地として注目され始めたようだけど、1920年に芦屋川駅が開通して以降、別荘や住宅の建設が急速に進み、山の斜面を生かした邸宅が広がっていった。
つまり1924年築のヨドコウ迎賓館は「高級住宅地としての芦屋」の黎明期に建築された建物なのだ。
もうまもなく築100年を迎えるヨドコウ迎賓館は芦屋の発展をこの丘から見守ってきたシンボル的存在でもあるんだな、と市街地を眺めながら思った。