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いにしえの建築をめぐる旅

【兵庫県西宮市】初夏の特別公開<重要文化財 神戸女学院>

兵庫県西宮市に位置する神戸女学院岡田山キャンパス。

岡田山という緑豊かな里山に建っているこのキャンパス内にはウィリアム・メレル・ヴォーリズ(1880~1964)が設計した校舎が創建当時のまま建っており、現在も現役の校舎として使われています。

ヴォーリズが設計した建物は12棟あり、そのすべてが2014年に国の重要文化財に指定され、年に数回一般公開されています。

キャンパス内の12棟の建物全てが重要文化財、という大学を一度見てみたくて今回、一般公開に申込んで見学してきました。

桜井松平氏の別邸跡地に建つ自然豊かなキャンパス

神戸女学院岡田山キャンパスは岡田山という里山に建っているのですが、行ってみると思ってた以上に

敷地内の約3割が森で動植物も数多く生息する自然豊かなキャンパスでした。

神戸女学院はもともと創立以来、神戸にありましたが1933年、摂津尼崎藩主桜井家の別邸があった西宮市岡田山に移転しました。

桜井家というのは桜井松平家のことで、現在の愛知県安城市桜井を治めていた(たくさんいる)松平家のうちの一つです。

徳川家康の曽祖父である松平信忠の弟、松平信定の代に分かれた松平家で、一時期は家康の松平家と争っていたようですがその後家康に従い、明治維新を迎えて華族となっています。

というわけで、まさかの愛知。まさかの徳川家と繋がりのある場所でした。

こんなところに三河、です。

神戸女学院 概要

1875年:アメリカ人女性宣教師によって神戸市に女子寄宿学校として設立

1879年:英和女学院に校名を定める

1894年:神戸女学院に校名を改称

1929年:新校舎をヴォーリズ建築事務所に依頼

1933年:岡田山にキャンパス移転

1945年:焼夷弾を受けて文学館屋根が破損

1995年:阪神淡路大震災で被災

2014年:ヴォーリズ設計による17棟のうち現存する12棟が国の重要文化財に指定される

というわけで2023年現在、ヴォーリズ設計の校舎として築90年、学校創立148年の歴史ある学校です。

見学の申し込みから当日まで

一般公開は事前申込制になっており、僕も申し込み受付開始当日に電話しました。

受付開始時刻から30分ほどたっての電話でしたが受付番号が既に80番台。

当日が約120人の見学者だったのであっという間に締め切りに達してしまったのではないかと思います。

見学希望の場合は受付開始当日にすぐ電話した方がよさそうです。

当日は13時受付開始。16時見学終了。

5グループに分かれてそれぞれツアーマイスターという学生ガイドに案内していただきました(自由見学もあり)。

晴天の下、絵になるスパニッシュ様式の美しい建築

当日はとても天気が良くて、スパニッシュ様式の校舎と木々の緑がとても鮮やかで綺麗でした。

図書館からみた総務館

設計者のヴォーリズは「美しい心を育むための品格ある建築」をモットーに建物を設計をしていたそうです。

彼はその著作の中でも「住宅の第一の目的は子供の教育と健康のため」というようなことを言っています。

落ち着いてくつろげること

陽の光が十分入ってくること

生活の中でいつも目に入るものが子供の精神に大切ということで絵画を飾ったり等「建築が人の精神に与える影響」というものを常に考えていました。

彼の建築が「優しい」と言われる所以はそういったところにある気がします。

理学館

内部の写真は控えますが、図書館は2階天井のアラベスク模様が印象的でした。

建築当初の机や椅子を現在も使用しているそうで、学生さんいわく「そーっと傷つかないように大切に使用している」とのことでした。

図書館

建物のちょっとした意匠も目を引きます。

他の方も思うことはみんな同じようで、みんな写真をパシャパシャ撮っていました。

人がいなくなった隙をみて撮る(笑)。

でも最近つくづく思うのは、写真を撮ることについ夢中になってしまい、その場の雰囲気を味わったり、じっくり観察したり、歴史に思いを巡らせたりすることが後回しになりがちだなあ、ということです。

まあ写真も趣味なのでそれはそれで楽しんでいるのですが、ちょっとせわしない気もします。

そんなことをぼんやり考えていたところでたどり着いたのが礼拝堂。

ここは神戸女学院の建物の中で(個人的に)一番お気に入りの場所です。

黄金色のステンドグラスを通して陽光がチャペル内に優しく差し込み、室内の明と暗のバランスが良く、とても落ち着く空間になっていたからです。

いったん写真を撮るのをやめて、しばらく椅子に座ってぼんやりしていました。

「あ~自宅の近くにこういう場所があったらなあ」と思いましたね。

こういう静かでほっとできる場所があったら、と。

まさにヴォーリズの言う「建築が人の精神に与える影響」を思いました。

一般公開では12棟全ての建物の中に入れるわけではないのですが、それでも十分であっという間の見学でした。

振り返ってみると旧藩主の別邸跡地に建っているヴォーリズ建築、ということで気品が感じられる閑静なキャンパス内だったなと思います。

建物はほぼ当時のままを残しているようで見応えがあったし、学生さんたちも大切に使用していることがよくわかりました。

キャンパス内の建物は重要文化財、周囲の環境も良し、ということで素敵な大学でしたね。