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いにしえの建築をめぐる旅

【三重県二見浦】賓日館へ行く

だいぶ前になってしまったけれど、三重県の二見浦(ふたみがうら)にある賓日館(ひんじつかん)へ行ってきた。

正確には、三重県伊勢市二見町の二見浦にある賓日館、ということになる。

もともと二見町は一つの自治体だったが2005年に伊勢市と合併して現在、伊勢市二見町となっている。

地図を見ていると、伊勢市と二見町の間には五十鈴川(いすずがわ)が横切っているので一見、別々の市町に見えたけど、そう、ここは伊勢市なのだ。

「伊勢に行ってきた」と人に言うと、みんな「ああ、伊勢神宮にお参りしてきたんだね」と言う。「どうだった?」と。

そこで僕が「いや、伊勢神宮には行ってないんだよね」と返事をすると、みんなちょっとあきれたような表情で問い返してくる。「え じゃあ何しに行ってきたのさ(笑)?」。

名古屋から高速道路で約2時間、車を走らせたわけだけど、確かに伊勢IC付近は渋滞していた。そう、みんな伊勢神宮が目当てなのだ。

渋滞している左車線からウインカーをだして右車線に移動し、アクセルを踏み込んでスピードを上げる。

渋滞を横目に、伊勢ICを通り過ぎてしばらくすると「二見JCT」が見えてくる。

ここまでくると、車はそんなに走っていない。スムーズに高速を降りて目的地へ向かった。

で、その目的地が賓日館である。

ヒンジツカン、とカタカナで書くとなんだか羊肉料理かモンゴル帝国の皇帝の名前のようだけど、ここは実に見ごたえのある立派な建物だった。

賓日館は明治20年、神宮へ参拝する賓客の休憩・宿泊施設として建設されたいわば賓客のための旅館であり、明治天皇の母、英照皇太后のご宿泊に間に合うようにとわずか三か月ほどで建てられたという。

皇室ゆかりの場所のようで、賓日館という名称も有栖川宮熾仁親王が名付けており、明治24年頃には幼少時の大正天皇も避暑、ご療養でこの賓日館に宿泊されている。

皇族、各界要人など身分の高い人が泊まっていたようだ。

なるほど、建築面積525.25㎡、木造二階建入母屋造浅瓦葺及び銅板葺のこの建物は、建物もお庭もとても立派な近代和風建築だった。

隣の二見館とともに1999年(平成11年)まで旅館・宿泊所として利用されるが二見館が廃業すると、宿泊所としての利用は終了し、その後平成15年に二見町に寄贈されて現在は資料館として利用されている。

大正~昭和初期に大規模な増改築を2回おこない、現在の間取りに近くなったということなので、現在の姿としてももう少しで100年になる。

手すりが低かったり、段差が違ったりしているのは、明治、大正、昭和と付け足したりしているためとのこと。

確かに手すりが低い。

でも、なんか落ち着く。

本館、大広間、土蔵の3棟は2010年に国の重要文化財に登録されている。

特に折上格天井の120畳からなる大広間は圧巻。

かつては、賑やかに宴会が行われていたんだろう。

地元の人や、あるいはご年配の方の中にはここに泊まったことがある人もいるのでしょう。

そんな素晴らしいこの立派な建物は、なんと大人310円、高校生以下150円で見学できる。

スタバのカフェ・オレ(short)より低い価格でここを見学できていいんだろうか。

しかもこの日はあまりお客さんがいなかったので、ほぼ貸切状態で、とても贅沢な時間を過ごせた。

照明器具、障子、天井、欄間等、様々な意匠、仕上げがあり、そういった細かいこだわりを眺めることは、建築に詳しい人はもちろん、そうでない人も楽しめると思う。

夏の暑い時期に訪問したわけだけど、クーラーをつけていたわけでもないのに館内は涼しく感じた。

全ての戸が開いていたからというのもあるけど、建物の中を海からの風が心地よく静かに流れていた。

賓日館を出るとすぐに海が広がっていて、この日は天気もよく、のどかで静かな時間をすごすことができた。

この二見浦の海岸は昔から景勝地として有名で万葉集にも歌がおさめられている。

万葉集以外にも、西行法師、鴨長明松尾芭蕉など名だたる歌人がこの地を和歌に詠んでいて歌碑も建っている。

昔から、歌人が一句よみたくなる風情ある海岸だったのだろう。

特に西行法師は晩年の6年間をこの地ですごしているので賓日館でも、彼に関する催しを定期的に開いているようだ。

少し歩くと「夫婦岩」も見れる(今回は行かなかったけど)。

かつてこの二見は、伊勢神宮にお参りするために宿泊するお客さんや、修学旅行や新婚旅行に来る人々で賑わっていたらしい。確かに、熱海とか小田原にあるような旅館が通りに並んでいる。

しかし、この日のんびりと夫婦岩参道を歩いていると、人通りは少なく、旅館街もがらんとしていた。

Googleマップを見るといくつか宿泊施設もあるようだが、実際歩いていると閉館して、そのままになっているような建物も見受けられた。

鳥羽水族館や志摩方面へ行く人は、ここを通り過ぎていき、伊勢神宮へ行く人はここまで来ないのかもしれない。

僕も賓日館は堪能したけれど、あとは海を少し眺めて車に戻った。

賓日館が素晴らしかっただけに、周囲のがらんとした雰囲気はやや残念に感じた。

まあたまたま、この日はそうだっただけなのかもしれない。

海が眺められる喫茶店でも見つけられたら良かったのだろうけど、結局、車を停めた音無駐車場の前にあるファミマでコーヒーを買って飲むことにした。

ここのファミマのATMでお金をおろすとATMが「よう来たな、また来てな」としゃべる。

また来るか?

うん、こっちに来ることがあったらまた寄りたい。

また伊勢神宮、松阪、鳥羽、志摩方面に行くことがあったらぜひぜひ、賓日館もおすすめします。